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STEVE BLOG 洋服の着方

青山のセレクトショップのオーナーが書くメンズファッションを話題の中心にした日記

死刑台のエレベーター(後編)

 意を決した私はとりあえず叫びます。「ヘルプミー!」
なーんの返事もありません。というか人の気配がまったくしないのです。フロントで部屋の鍵を受け取ったわけですから少し前まではフロントに人がいたはずです。そして今の声がフロントに届かないわけがありません。しかーし、ホテルはまるでシエスタの真っ最中のようにシーンと静まり返っています。気がついたら私は汗びっしょり。エレベーターの中がだんだん暑く感じられます。空気はどんより重く、人の気配なし、だれにも気づかれないまま何分がたったのでしょうか。
 海外ではちょっとしたピンチによくあいます。たとえば空港で予定のフライトに乗り遅れる、預けた荷物が出てこない、ある朝起きると大雪で交通機関がマヒ、またはタクシーがストライキ、食べ物に当たる、等々今までに色々なことがありました。そしてその都度学んだのは「ピンチは自分で切り抜けなければ!誰も助けてくれないよ。」というものでした。
 私は自分でこのエレベーターから脱出をする決心を固めました。
まず、バードケージの内扉を力ずくでこじ開けます。これは何とか開きました。ほっておくとまた閉まってしまうのでライターを挟み込んで閉まらないように固定します。さて、後はフロアーについている扉が開けられれば、その隙間からなんとか滑りだせるはずです。汗をぬぐい扉の細部に目を凝らします。ここに来てもう意地でも自分で脱出する気になっている私は、戸袋の中に小さいレバーを見つけます。とりあえず引いてみると意外と簡単にレバーが倒れました。その状態でフロアードアをゆっくり押すとなんと開きました。ぎりぎり横になればすべり出せるスペースがあります。そしてゆっくりと慎重に、今エレベーターが動き出したら完全にはさまれるな、と思いながらエレベーターから滑り出し3階のフロアーに飛び降りました。
 気がつくと自分は「ハァハァ」と荒い息をしております。白のフライのボタンダウンシャツは油染みと汗で体に張り付いています。しかし、自分ひとりで脱出に成功したという達成感があり、「やったぞーおー」とか叫んでハイタッチとかしたいのですが、相変わらずあたりには人の気配がなく、シーンとしています。仕方がなくしょんぼりと階段をおりフロントに行くと案の定だーれもいません。それから待つこと10分やっと戻ってきたフロントのおじさんをエレベーターのところに連れて行くとおじさんは大声で一言。「マンマミーア!!!」
 当然チェックアウトの日までエレベーターは使えず。私は自分で重い荷物を下まで運ぶのでした。
おわり


IMG_0379_convert_20090218173147.jpg


  1. 2009/02/18(水) 17:23:42|
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2005年、8月に青山にメンズインポートウェアのブティックがオープン致しました。
オーナーでバイヤーでもある私が商品の紹介やファッションに関する話題、海外出張での情報などをお知らせいたします。
ぜひご一読ください。

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